誰にも頼まれていないのに伊東市の観光地を紹介する謎の小説
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伊東駅死番線 あとがき
伊東駅死番線、つまりあるはずのない四番線ですが。気づいた人もいるかもしれませんが、ハリー・ポッターのキングス・クロス駅9と4分の3番線から思いつきました。いつかどこかでこのアイディアを使おうと思っていたところ、伊東市で今年の7月11日からぷらんぽ電車が運行開始。では、四番線を走らせてしまおうと思ったわけです。小説中では前作に引き続き「ぶらんぽ」の名称にしています。
実際の「ぷらんぽ電車」ですが、2014年12月まで運行する予定です。伊東にお立ち寄りの際には是非お乗りください。ちなみに空は飛びませんし、一碧湖へも行きません(笑)
作中に出てきた七福神の寺社の他に、伊東市内には七福神の湯という銭湯があります。伊東のこととて銭湯も温泉です。伊東に観光の際は入浴してみてください。
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ではまた、次回作まで失礼します。さようなら。

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伊東駅死番線 第九章 一碧湖神社
一碧湖西岸、一碧湖神社の白い鳥居の前にはまだ夥しい数の遺体が散乱していた。紅葉広場が紅葉ではなく血で赤く染まった。検死と回収作業が進んでいる。遺体には取り立てて食われた痕も無いから、赤牛は食べるのが目的で人々を殺したわけでは無さそうだ。数百年前に人間たちに封じ込められた恨みを晴らすのが動機か。
横を見ると美香が手を合わせて拝んでいた。白い頬に涙が伝っている。普段は天然でも、こういう純真な心を持っている子だ。
「もうこれ以上誰も死なないから、安心して」と慰めると、
「でもね」と百合さんが、
「光栄寺の日広上人は、七日七晩お経を唱えたのよね。今回は一瞬お守りを掲げただけ。またいつ出てくるか…」
遺体を見て嘆く遺族たち、そのそばを沈んだ気持ちで歩いていった。
ああ、小さな赤いワンピースの女の子、あんな小さい子まで亡くなったのか。そばで泣いているのはそのお婆さん?
ふと、遺体を見て泣いていたお婆さん、私達を見上げて顔がほころんだ。
「あなた達かね、化け物を退治してくれたのは」
「え、ええ」
「ありがとねえ、良かったよお、あなたたちが伊東に居ていれて」涙の痕の残った顔、その顔をしわくちゃにして、お婆さん微笑んで…私なんかを拝まなくても…泣けてきちゃうから…
大好きなこの街、少しでも良くなるように、これからも頑張っていこう。
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伊東駅死番線 第八章 赤牛
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頭頂部から横へ、太く鋭い二本の角が逞しく張り出している。ぶもおおおおっ、と高い雄叫び。鋭い目つき、荒い鼻息。よだれを垂らしつつ赤茶色の巨体を震わせ、こちらへ突進してくる!
「いやぁん」緊張感をそぐ美香の声。
赤牛が巨大な口を開け、乗り捨てたボートをがりがりがりっ、と音を立てて粉々に噛み砕いた。
「百合さぁん、牛って草食だよねぇ、私達食べられないよねぇ…」
「いや妖怪の食生活までは私も知らないけど…」
荒い息を吐きながら疲れた様子で赤牛が島へ登ってきた。お疲れでしたらご無理なさらずに…
赤牛の熱い息が私にかかろうかという時、ざばあっ、と水面からダイバー達が顔を出した。振り向いて驚いた赤牛、怒りに震えてはいるが多少は勢いをそがれた様子。
「かかったわね!」ダイバーは胸元へ、私達はポケットへ手を入れた。一斉に赤牛めがけ腕を伸ばす。私達三人と、ダイバー四人。手には七つのお守り…七福神のもの。
赤牛の怒りに満ちた顔が恐れに満ちた。ぶもっ、ぶもっ、と弱気な鳴き声。
たちまち七つのお守りから閃光が発する。聖なる光に包まれた赤牛。断末魔の悲鳴があがる。
うぎゃああああっ、光の中で赤牛は美女、龍、電車の形態を次々にとる。何に化けても逃れられぬと悟ったのか赤牛に戻るとそのまま燃え尽きるように消えてゆく…
まぶしさに目を細めていたが、光が止み目を開けるともうそこには何も残っていなかった。
ダイバー達が笑みを浮かべ島にあがってきた。
「海坊主の時も怖かったが…」と息をつく城ケ崎の海野さん。お久しぶりです。
「今日はありがとうございます。また変な物が出たらよろしく」と百合さん。
「美人の頼みでも嫌だな…」と苦笑する海野さん。また変な物がでるのは私だって嫌です。

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伊東駅死番線 第七章 再戦
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行きたくないけど再び一碧湖に行かねばならない、これ以上の被害者を出さないために。庁用車で一碧湖東岸のボート乗り場へ。この騒ぎでボートなんか貸してくれるのかと思ったが、以前にも妖怪退治をした観光課職員だと説明すると、
「ああ、あのお嬢ちゃんたちかい」と機嫌の良くなったボート乗り場のおじさん、ちゃんと貸してくれた。
「きっと赤牛も退治してくれよ」と頼んだ割には三十分八百円の料金はしっかり取ったけど。
一碧湖東岸から西岸の一碧湖神社の方角を目指す。これって、ほとんど挑発行為というか、自殺行為というか。
青い空、穏やかな湖面、爽やかな風。脚漕ぎの白鳥のボートなどを眺めていると、とても平和な観光日和だ…状況を考えなければ。今日はさすがに釣り人も見当たらない。
百合さんはスマホで伊東市の地図をチェック中。美香はにこにこと晴れた空を眺めながら遠足気分で鼻歌を歌っている。こんな時にぶらんぽのテーマソングかいな。で、一番体力のある私がボートを漕がされてる訳ですが。湖の中ほどを過ぎても赤牛さん、まだ出ない。牛だからのんびりしてるのか。疲れてきましたけど。
「お経島が見えてきたわね」と百合さん。振り向くと、成程お経島の目印の赤い鳥居が見える。木々が手入れもされずに生えた、ごく小さい島だ。「たぶん、そろそろ…」
ばしゃあああっ!と水しぶき。揺れるボート、みんな必死に伏せる。なんとか転覆せずに済んだ。
ボートよりはるかに大きな牛がそこにいた。赤い巨体から水をしたたらせ、険悪な目つきでこちらを睨んでいる。
「お経島へボートつけて!」いや、分かってますけどね。幾ら体力勝負の私でも、いい加減、腕がくたびれてまして。
とにかく必死に漕いで、なんとか鳥居にボートをくぐらせた辺りで、
「もういい、走って!」服が濡れるのも構わずボートを捨てて島へ駆け上がった。

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伊東駅死番線 第六章 ニュース
一階市民課の前の大型テレビ。市民はもちろん、職員達も仕事どころではなくテレビのニュースを見つめている。
素人が映した動画らしい。一碧湖畔の木々の向こうから10両編成のスーパービュー踊り子が現れた。…どうでもいいけど、大池の赤牛さん、鉄道マニアなん?
「UFO?」「電車だ!」というカップルらしい声が入る。
スーパービュー踊り子
白と青緑の車体が段々大きくなる。一号車の展望席で立ち上がって何か喚いているらしい乗客が映った。だが、電車はためらいもせずに湖水に飛びこむ。ばしゃああん!という音と共にカメラにも水滴がかかる。
「きゃあ!」「うおっ!」という声。
最後のダブルデッカーと展望車が水の中に沈むまで、あっと言う間だった。やがて浮かんできた大量の死体にはモザイクがかけられていた。
「…一碧湖に上がった死体は、本日、伊東駅から電車と共に消えた乗客と一致しました。わずかに残った生存者達は、『伊東駅四番線には乗るな』などと意味不明なことを口走っています」
「今日も同じ手で人をさらってるの?」
「明日も明後日もさらうつもりでしょうね」腕組みをしてテレビを睨みつける百合さん。
「…昨日消えたぶらんぽ電車との関連を調べています」
職員達がひそひそ話しながら私達の方を見る。
「…なお、先だって伊東市の妖怪退治をした美女三人がぶらんぽ電車に乗っていたという情報もあり…」
正確には、美女二人及び大したことのない容姿の私ですが。
「…今回の事件の解決にも期待がかかります」
「なんか勝手に期待されちゃってるよぉ。どーするぅ?」口をとがらせる美香。
「うーん」これは市役所観光課職員の職務の範疇なのか?市長さん、特別手当ください。
「赤牛は水の中…ちょっと、思いついたわ。またお世話になる方が必要ね」
百合さん一人に任せれば何でも退治できる気がしないでもない。

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伊東駅死番線 第五章 会議室
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「地図を確認しましょう。あの時ぶらんぽ電車は、伊東駅から一碧湖まで一直線に市街地を突っ切り競輪場やかどの台分譲地を越えて行けば早いのに、そうしなかった。何故かしら。もう一つ。伊東駅から出発する時、不自然なくらい上昇し、柏峠や大室山ではかなり下降したわね」と分析好きな百合さん、伊東市の地図にぶらんぽ電車の飛行コースを赤鉛筆で描く。なるほど、伊東市の西へ円を描くようなコースになる。かなりの遠回りだ。
「伊東駅周辺や市街地には避けたいものがあり、柏峠や大室山には得たいものがある…ということですか」私の頭ではこの程度が精一杯です。
「そう、柏峠の天狗や大室山の大蛇の霊力が少しでも残っていれば得たかったのでしょう。では、避けたかったものは何?」
「駅とか街とかにぎやかなとこが嫌いなのかなぁ」と能天気な美香。
「…赤牛さんが嫌いなものといったら?」
「ああ、お守りねぇ」
「そう、仏現寺のね。伊東で仏現寺と同じくらい妖怪が避けたい場所は?」
「仏現寺と同じ…あ、七福神!」たまには頭が回る私。
七福神とは、伊東市内に仏現寺を含め七か所あるお寺と神社のこと。駅裏には弁財天の松月院、大黒天の朝光寺。市街地には毘沙門天の仏現寺の他に、寿老人の最誓寺、布袋尊の東林寺、恵比須神の新井神社。一つだけ離れて荻に、福禄寿の林泉寺がある。
「そうか!あの時、林泉寺の方に逃げたから龍は追ってこなかったんだ!」
「正解、だから私達はこれから七福神を回って…」
と、どたどたと観光課の職員が駆け込んできた。
「お、お前ら、ぶらんぽ電車で一碧湖連れてかれたって言ったよな?テレビ見てみろ…」

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伊東駅死番線 第四章 龍
ばたばたと道路へ出ると通りかかった乗用車の前に立ちはだかる。
窓から顔を出した中年男性、いやな顔をしたが、ふと横を見て、目を大きくした。私も、見たくはないけど振り向いてみる。
龍だ。初めて見た。そりゃそうだが。
はるか頭上に髭を生やした龍の顔。鋭い角を頭に生やし、巨大な目がこちらを睨む。大きく裂けた真っ赤な口からは鋭い牙が覗く。青光りする鱗に覆われた長い胴をくねらせ、四本の脚には何でも切り裂きそうな爪が光っている。
龍
一斉に三人でお守りを取り出す。一瞬、龍がでかい図体のくせに怯えた顔をする。
「早く乗せて!」
車のドアのロックが解除され、私達は転がり込んだ。
運転手さん、理由も聞かず、聞く余裕もなく、車を急発進させた。車は西へ。
ぐおおおおお、と龍が吠えるのが聞こえる。びゅうううう、と風が吹きまくる。空には黒雲が漂ってきた。いつ殺されるかと皆で青い顔。
「な、何なんだよあれ」
「後で説明します。今は急いで!」
ざばあ、と土砂降りの雨が降ってきた。横殴りに車の窓に叩きつける。ついさっきまで晴れていたのに、今日は台風の予報なんてあったっけ?ごろごろと雷まで唸りだした。前も見えないような豪雨の中を車は進む。たとえ龍に殺されなくても事故に会いそうだ。
猛スピードでロワジール伊豆一碧を通りすぎた頃、龍の声がやみ、あっけなく風も雨もやんだ。
恐る恐る後を見ると、龍が居なくなっている。あれ、何で?

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伊東駅死番線 第三章 一碧湖
がたん、と電車が着地。一碧湖は東に小さい円、西に大きい円があるひょうたん型。私達が下りたのは西の湖畔だ。すっとドアが開いた。
「終点、一碧湖でございます。お降りの際はホームと電車との隙間にご注意ください」…ホーム無いってば。
一碧湖の美しい湖面が緑を映している。遠くではボートや釣り人が呑気そうだが、私達は呑気どころではない。
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湖水を背に立つ和服の女性。綺麗な長い髪、美香を青白くしたような美人だ。これで美香くらい天然ボケな人なら安心だけど。
「いらっしゃいませ、新井魔魅さん、松原美香さん、宇佐美百合さん…でしたね」
「ど…どちら様でしたっけ?」
「私のお知り合いで柏峠にお住まいの方がお世話になりまして」妖怪にも近所付き合いってあるのかな、と馬鹿なことを考える私を、すごみのある妖艶な微笑で眺めている。
「あなた、どこから現れたのかしら」
「あら、頭脳明晰な百合さんらしくもない。私が列車に化けていたのよ」
はっ、と後を向くと、何もない野原、少し先に道路。乗ってきた列車はあとかたも無くなっていた。
「おうちに帰れないよぉ」…それより美香、命の心配をしてってば。
「変身能力?あなたはまさか…大池の赤牛?」
「ええ、そうよ、ご名答」不気味な微笑み方しかできないのか、この女は。
昔、一碧湖が大池と言われていた頃。大池に一匹の赤牛が住み着いた。美女に化けて若い男を水中に引きずり込んだり、龍に化けて湖を渡る人を驚かしたり。村人達が困るのを見かねた光栄寺の日広上人が、湖の小島に渡りお経を唱え赤牛を封じ込めた。経を上げた小島は現在はお経島と呼ばれている。
「天狗でさえもこの街を支配できなかった。あなた達、なかなかやってくれるわね。いきなり水死させてあげても良かったのだけど、天狗すら倒したあなた達のことは面白い趣向で殺してさしあげましょう」いや、お気遣いなく…
不意に美女は四つんばいになった。
女の口が醜く裂け、目玉が飛び出す。更に全身に鱗が生えだした。指には鉤爪、頭からは角が…
「化けている間ににげるわよ!」と百合さん絶叫!

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伊東駅死番線 第二章 飛行
「なっ?」列車が宙に浮いた。美香が思いきりこける。
「痛いよぉ」
「痛いくらいで済めばいいけど…」
窓の外には駅長や市長の驚いた顔。その横に驚いてるだろうけど変わって見えないゆるキャラの顔。お子様達は空飛ぶ列車を見てむしろはしゃいでしまっている。
見上げる人々の顔が急速に小さくなってゆく。「どこまで登るのぉ」
ホームの屋根、更に伊東駅が小さくなってゆく。伊東駅周辺の地図を見ているようだ。
列車は西へと飛行しだす。徐々に下降してきた。緑の木で書いた「丸山公園」の文字が見えた。もう人家は少なくなってくる。
更に西へ、大平の森。森の中のハイキングコースで、リュックを背負った人たちが電車をぽかんと見上げている。
0154.jpgそして、嫌な思い出の残る柏峠へ。別に見せてくれなくてもいいのに、燃え尽きた一本松がよく見えるところまで列車は下降した。黒焦げの中で、天狗の遺体はやはりどれか見分けがつかない。そこから電車は南へ向きを変えた。
細長い松川湖に奥野ダムが見えてきた。釣人達がこちらを見上げて指を差し、何か叫んでいる。
伊東カントリークラブのグリーンを超える。ゴルファー達がボールの行方よりも電車を見ている。
更に、大室山へ。壊れたリフトの辺りでまた下降する。大蛇の死体は片づけたらしいが、芝生が血でどす黒く汚れている。
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「見たくもないものばかり見せるし」
「それに、妙に大回りなルートね」と冷静に分析する百合さん。
大室山から北上して…
何者かが瞳を開いてしまったらしい『伊豆の瞳』一碧湖へ!

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伊東駅死番線 第一章 ぶらんぽ電車
シルバーとブルーの伊豆急の車体が、今日はピンクの「ぶらんぽ」のロゴで飾られている。車内までぶらんぽのポスターで一杯だ。ぶらんぽ電車の初めての運行日。ホームには伊東市長や伊東駅長などのお偉方にまじって、伊東マリンタウンのよく分かんないゆるキャラが空気を読まずにうろついている。招待された幼稚園のお子様方が、事情も理解せずに無闇とはしゃいでいる。
伊東市役所観光課の私こと新井魔魅、そして同僚かつ親友の松原美香、先輩の宇佐美百合さんを中心に作った観光パンフレット「ぶらんぽ」。かなり好評なのはうれしいが、ぶらんぽのテーマソングを歌わされたりぶらんぽ体操を踊らされるようになったのは恥ずかしい。
♪ぶらぶらいとう~ いとうぶらんぽ~
と、今日のところは市内のジャズダンススクールの小学生達が体操してくれているので、私達は大衆の面前で恥をかかずに済む。
テープカットなどの式典が滞りなく済み、ピンクのぶらんぽTシャツに身をつつんだ私達三人は電車に乗り込んだ。
「まあ、ぶらんぽも発展しちゃったね」と私。
「みんなの努力のおかげよ」と優等生発言の百合さん。
「よかったねぇ」とのんびり微笑む美香。
0204-thumb.jpg「それではぶらんぽ電車はJR伊東駅駅長様の合図で発車いたします」とアナウンス。駅長さん、昔は発車の合図もしたのかも知れないけど今は何だかぎこちなく合図してるのが面白い。発車のメロディと共にドアが閉まる。
「四番線より一碧湖行きが発車いたします」
「四番線?一碧湖?」と眉をひそめる百合さん。
はっ、と気づいた。伊東駅は三番線までしかない。それに一碧湖には駅なんてない。改めて車内を見渡すと、破れたシート、穴の開いた床が目に入った。綺麗だったはずの車内に埃が積り、蜘蛛の巣が張っている。ぶらんぽのポスターは?一枚もない。
「何、この列車…」驚く私。
「怖いよぉ」怯える美香。
「伏せて!」と百合さんの声が飛んだ。

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伊東妖怪伝 あとがき
小説は高校の頃から書いていますが、ネットで発表するのはこの作品が初めてとなります。当初、仏現寺と仏光寺を取り違えていたというミスもあり(笑)なるべく実地に伊東の街を歩いて書いてみました。
実は、初めは美香が主役でした。しかし大人しい子が妖怪退治に出るというのも何かしっくりきませんでした。そこで魔魅を主役に変えてみたところ、たちまち元気に動いてくれ、すらすらと書けました。…作中人物のモデルが誰かは伊東市役所職員なら見当つくかもです(笑)
なお、作中の「ぶらんぽ」は、実在する観光パンフレット「ぷらんぽ」がモデルです。作成しているのは伊東市役所観光課ではありませんが。伊東に観光の際は「ぷらんぽ」を探してみてください。
ただいま次回作を執筆中につき、しばらく更新はできません。書きあがり次第、発表いたしますので、お楽しみに!0209.jpg


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伊東妖怪伝 最終章 按針祭
どうやって街まで帰ろう、と思ったが、結局消防車に乗せてもらって帰ることに。
街に戻った後、長時間に及ぶ警察の事情聴取にいらいらして、美香が「花火見られなくなるよぉ」と駄々をこね出した。苦笑した警察官がなんとか早めに切り上げてくれた。
午後八時前、ふれあいセンターの横の広場で待ち合わせ。私が行くと、入念にメイクをした百合さんとメイクをしないほうが可愛いのに塗りたくった美香が、浴衣姿で気持ちよさそうに足湯に浸っていた。
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「あら、来たわね」
「待ってたよぉ」
これだけの事件の後なのに、冷静でいられる百合さんと能天気でいられる美香は大したものだ。
揃ってぶらぶらとスクランブル交差点へ。キネマ通りのアーケードからも続々と人がやってくる。いでゆ橋を渡り川沿いの遊歩道へ。川音を聞きながら団扇をあおぎつつ川を下る。もうかなりの人出だ。ちらちらとこちらを見る男の子達が多い。…まあ主に美香と百合さんを見てるんだけど。海岸のバイパスに出たころ、アナウンスが入った。
「本日の花火大会は、離岸堤の花火が一部中止となりました」
「どーしたんだろーねぇ」と不思議そうな顔の美香。…いや、思いきり私達のせいだから。
市長の挨拶やら英語の解説やらはどうでもいい、聞き流す。童心に帰った私、いつも童心のままの美香と一緒に夜店の綿菓子やりんご飴を物色していると、ふと百合さんが呟いた。
「真魅、覚えてる?私達、天狗を燃やしたと思い込んでるけど…死体は確認してないのよね」
「えっ」と見上げた私。ひゅるるるるっ、と最初の花火が上がった。
どかんっ、と轟音と共に花火が百合さんの冷たく美しい顔を照らした。



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伊東妖怪伝 第八章 柏峠
ヘリが追いついた…というより天狗が速度を落としたようだ。まあ結局、誘導されてる感じ?木々を超えて柏峠へ。この暑いのに色んな所へ行かせる妖怪さんだ。開けた場所に一本松。あれが天狗の住処か。
降下する天狗、降下するヘリ。と、突然、松の枝が槍のように伸びてヘリのプロペラを貫いた!
p8064631-500x375.jpg「ああっ!」バランスを失って落ちていく私達の目に、天狗のにやけた顔が映った。
がたんがたん、と音を立てて不時着、あちこち痛む体でヘリから這い出す私達。
「もう飛べないぞ」とぼやく操縦士。
「おうち帰れないよぉ」と泣き言を言う美香。とりあえず、おうちより命の心配してね。
「勝負あったな」と一本松の上で仁王立ち、不敵な笑みの天狗。どうにかしたいけど、近づいたらまた枝で攻撃されてしまう…
「勝負?これからよ」…百合さん、なんで天狗に負けないくらい不敵な笑みなんですか?なんかヘリの座席の下から妙なものを取り出して、
「これ、ちょっと黙ってもらってきたの。花火玉」
…盗んだってことね。
「ほほお。投げつけるつもりか。当たらぬと思うがな」確かに、天狗の飛行速度なら普通に投げたらよけられるだけだろう。
さっとライターで導火線に火をつける百合さん。すぐに片手で背後の私と美香にサイン。…なるほど、そういうことね。
花火玉を上に投げる百合さん。美香が長い髪を揺らしつつ、飛び上がって玉を打つ…ふりをする。
よけようとする天狗、その顔にとまどいが。
すかさず私がアタック、高い鼻に花火玉が命中!見事な時間差攻撃!
ばああん!という轟音と共に天狗の体は跡形も無くなり一本松が燃え上がる!
「バレー部なめんなぁぁぁぁぁ!!!!!」
雄叫びを上げる私の横で、冷静に携帯で消防車を呼ぶ百合さん、「よかったねぇ」とのんびり微笑む美香。…たまに私が見せ場作ったんだから、もうちょい盛り上がってよ。

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伊東妖怪伝 第七章 伊東市民病院
着替える間も惜しんで、私達は市民病院へタクシーを走らせた。美香も含めて、明らかに私達は狙われている。三人揃っていれば間違いなく現れるはず。
海水に乱れた髪のまま早歩きで病室へ行く私達を看護婦が呆れて見ている。
ばんっと開けたドア、美香の白い顔、大きな目がぽかんと見ている。
かいつまんで事情を話していると、またドアが開いた。
「やあ、お揃いだな」と笑顔の津田課長。じっと見つめる私達に、笑いが止まった。
「どうした?せっかく見舞いに来てやったのに」
「もう分かっているんですよ」と百合さん。
「何が?」
「なぜ課長が仏現寺のお守りを持ちたがらなかったのか」
「……」
「なぜ課長がぶらんぽの取材を取りやめなかったのか」
「……」
「もともと全て課長の発案でしたよね」
「……」
「あなたは美香にとりついて天狗の詫び証文を破らせた。だけど美香に長時間とりつく力は無かった。大蛇には地中から、海坊主には海中から群発地震を起こさせた。だけど大地震を起こす力は無かった。証文による束縛は無くなったけれど、昔の力を取り戻すには、若い娘の生贄が必要。自分と大蛇と海坊主の分、私達三人ね。大蛇と海坊主は退治されたけれど、一人で私達をお召し上がりになるおつもりかしら?」
 怖いことをさらっと言いますね。
「…よく見破った」
課長の赤ら顔がますます赤くなる。課長の高い鼻がますます高くなる。整った髪がばさら髪になる。そう、あの時見えた顔だ。スーツの背がばりっ、と破れ白い羽根が生えた。こんな時ですが課長、天狗にスーツは似合いません。
一斉にお守りを取り出す私達三人。
「くっ」と悔しそうに顔を歪め、天狗は窓へ駈け出した。ばりんっ、と大きな音を立ててガラスを割り、天狗は瞬く間に空へ。
「屋上へ行くわよ!」走り出す百合さんの後を追う私達。廊下に出るや、階段を必死に駆け上がる。ああ、美香回復してんじゃん、良かったね。
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屋上に上がると、すでにドクターヘリがプロペラを回し始めていた。どこまで話を聞かされているのか知らないが、若い操縦士が空飛ぶ天狗をぽかんと眺めている。「なんだよ、あれ?」
「早く追って!」ばたばたと乗り込む私達。ばたばたと飛び上がるヘリ。
天狗の小さい後姿が見える。この方向は…柏峠。

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伊東妖怪伝 第六章 伊東港
「この事件の元凶さん、今日が何の日かくらい分かってるはずだけど」不審な顔の百合さん。
そう、今日は八月十日。伊東港で按針祭の花火大会がある。
揺れるボートに必死に捕まる。海坊主が本格的な嵐を起こす前に伊東港へ…ところで海坊主が作る波や風は当然海坊主の方から来るんだから、わざわざボートを逃がしていることになるんじゃないか?頭の弱い妖怪さんで良かった。
川奈沖を通過すると、海賊船のペイントをした遊覧船が慌てて向きを変えた。「何あれぇっ!」と女の子が叫ぶのが聞こえる。甲板に双眼鏡でこちらを眺めている人の姿が見える。海賊船だったら、海坊主くらい退治して下さいな。
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やっと、伊東港の離岸堤が見えてきた。その隙間へボートを入れて…後ろの海坊主は?やった、百合さんの作戦通り!通れない!
海坊主を見て一斉に固まった海水浴客達が一斉に叫んで逃げていく。ゴムボートやビーチボールが散乱する。「何あれぇっ!」だから海坊主だってば。
と見ている間に、ごりごりごりっと離岸堤が崩れだした!え、作戦失敗?
「点火して!」と百合さんが携帯に絶叫する。すぐに離岸堤の仕掛け花火とスターマインが一斉に火を噴いた!
ぐああああっ!と聞いたことも無いような声。あ、大蛇の時に一度聞いたね。
海坊主の巨体が吹っ飛び、血しぶきが散乱する。昼の花火も迫力あるねぇ。辺りが黒い肉やらどす黒い血やらでぐちゃぐちゃになる。シーシェパードが見たら勘違いして怒りそうだ。
 ボートを陸につけオレンジビーチに上がると、血まみれの海を見て海水浴客がぶつくさ言いながら帰っていく。
…最近、観光課の職員なのに観光客を減らしている気がするなぁ。

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伊東妖怪伝 第五章 富戸の海坊主
「大体どういうことか分かってきたけどね。お守りは持った?あえて罠にかかりに行くから」
群発地震の震源地は、大室山は無くなり門脇埼灯台付近だけになった。さあ、見つけてくれと言わんばかりに。大室山の大蛇の次は、富戸の海坊主の取材へ出かける。
昔、富戸の漁師が漁をしていると大きな海坊主が現れ、「ひしゃくを貸せ」と要求した。驚いた漁師がひしゃくを渡すと、ひしゃくは海坊主の手の中でぐんぐんと大きくなった。質量保存の法則って知ってますか?海水を船の中に注ぎ込まれたので漁師たちは慌てて泳いで逃げたそうな。
0219-thumb.jpg「…泳ぎたいねぇ」
私と百合さんは、城ケ崎のダイビングスクールのダイバー海野さんにモーターボートを運転してもらって海の上。真っ白な灯台が、険しい岸壁から雲一つない青空にそびえたつ。すぐそばの吊り橋には観光客達が見える。かなりはしゃいでるみたい。なぜ私達は青い海の上で市役所の制服着て灼熱の太陽にさらされねばならんのか。
海野さん、水面下を捜索中。食べられなきゃいいけど。ふいにボートの後の方で海面が泡立った。ごぼっ、と音を立てて水中眼鏡が現れた。
「化け物が出た?」と笑顔で尋ねる百合さん。こくこく、とうなずいた海野さんは大きな体に似合わず怯えまくってモーターボートに乗り込んだ。
「やっぱり狙われてるみたいね」と冷静な百合さん、海野さんにてきぱきと進路を支持する。
慌ててエンジンを駆け出すボートの後ろに、徐々に黒い頭が現れた。現れるだろうと予期していても怖いものは怖い。巨大な目。ぬめぬめと光る体。太い腕の太い指には巨大なひしゃくが握られていた。
「…デフォルトでひしゃく装備?ずるいなぁ」
馬鹿を言っている私の頭に思いきり海水が浴びせられた。
「だから水着で来たかったのに…」って呑気なことを言ってる場合じゃないっ!
ばりばりばりっ、とボートのエンジンがかかり、急発進する。
ぎょろりと目を向けて追ってくる海坊主。「まぁぁぁてぇぇぇっ」と太い声が響く。怒りと共に風が吹き、波が高くなる。

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伊東妖怪伝 第四章 大室山リフト
ずちゃっ、という地響き。ぶわぁっ、という叫び。
聞きたくない、聞きたくない。見たくない、見たくない。
ふいに百合さんがスピードを落とした。
「追いつかれちゃうよ!」
「追いついてもらうのよ」
「なんでっ!」
0183.jpg
目の前に大室山のリフトが見えてきた。麓に「地震多発につきリフトは休止します」という看板。ちょうど機械室から作業服をきたおじさんが、何も知らずに呑気に口笛吹いて顔を出した。
いきなり走ってきた車に驚いたおじさん、その後ろを見てもっと驚き、茫然、唖然。
「な、なんだぁっ」と叫ぶおじさんの横に急停車。転がり出る私達。
「ねぇっ、リフト動かして!」と百合さん。
「あっ、なるほど!百合さん頭いい!」
「ああ…そうか、やってみる」震える体、血走った眼で機械室へ走りこんだおじさん、レバーやらボタンやら操作している様子。
おじさんに負けずに血走った眼の大蛇さんが、ずりっずりっと追ってくる。よほど長く地中に居たらしく、全身の鱗に苔が生え土にまみれている。巨大な牙の生えた口から吐く生温かい息が、もうそこまで…食べられたくないよお…
がたん、という音に大蛇が首を上げる。リフトなんて見たことないのだろう、不思議そうだ。蛇が不思議がってる顔ってのも初めて見たけど。その鼻先に、がああっと音を立ててリフトが直撃!ぐふうっ、と唸る大蛇。
「やった!もっといけ!」
次々と大蛇にぶつかっていくリフト。青黒い皮膚から赤黒い血が流れる。十個くらいぶつかったところでリフトは停止した。まだ、しぶとくぴくぴく動いている。醜いこぶだらけの頭が、重そうにゆっくりと持ち上がった。
「ダメだ、まだ生きてる…」
大室山の溶岩のような血走った目が、怒りを込めてこちらを睨む。洞窟に居たくせに洞窟のような口が開く。平太クンの刀のような鋭い牙がみえた。徐々にこちらへ近づいてくる。殺される…ああ、死ぬ前に海外旅行したかったな…
と、大蛇にからまるケーブルが引っ張られ、大きな黄緑色の支柱が倒れ出した。逆三角形の不気味な頭に倒れかかる。どどんっ、と頭を一撃で潰す。ぐああああっ!と聞いたことも無いような声。噴出した血で芝生が赤く染まってゆく。大蛇の片目の光が消えてゆく。
「やっと死んだわね」と百合さん。額の汗を拭っている。百合さんでも冷や汗かくことあるのね。
…でも、リフトって私のお給料何か月分かなぁ。

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