誰にも頼まれていないのに伊東市の観光地を紹介する謎の小説
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曽我物語異聞 第五章 曽我兄弟首塚
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「八重姫様、東林寺の本堂には伊東家代々の位牌の他に、工藤祐経の位牌もあります。本堂は襲わないでしょう」
東林山の境内にある岡の頂上に、私達三人はふわりと着陸した。ここには、河津三郎の墓、その向かって右に曽我兄弟の首塚がひっそりと立っている…
どどおんっ!と音がしたと思った途端に河津三郎の墓が消滅、そして一瞬にして砕け散った墓石の上には、工藤祐経が立っていた!
「何ということを…」柳眉を逆立てる八重姫。
「八重姫よ」と急に落ち着いた口調、憐みを込めたまなざしで語りかける祐経。激怒する八重姫も気をのまれた。
「おぬしは、千鶴丸を殺した伊東祐親を恨んだことはないのか?」
痛いところをつかれ、ぐっと息を呑む八重姫。
「あれは…恩顧のある平家を慮り、父上はお家のために…」
「だが結局、平家など滅び源氏の世が来たではないか。祐親はお前の子を無駄に死なせただけだ」
「違います!あの時、祐親様も悩みぬいて…」と百合さんが口をはさむ。
「数百年も後のおぬしらに何がわかる!」と怒号する祐経。さらに続けて「八重姫よ、祐親まつりなどとたわけたことをする伊東の街は、わしと共に滅ぼしてしまえ。千鶴丸を殺した祐親は、お前の仇である」
「い、いやああああああああああ!」あれほど毅然としていた八重姫が、涙をぼろぼろこぼして蹲った。何も言えないまま私達はそのか細い肩を見つめた。
「母上…」と背後で優しい声がした。はっ、と八重姫が泣きぬれた顔をあげる。千鶴丸の健気な姿がそこにあった。
「私は、祖父祐親様を全く恨んではおりません。私が殺されたのは、武家の習い。仕方が無かったのです、おじい様のせいではありません」と、千鶴丸は何の屈託も無い顔でにっこりとほほ笑んだ。
「おお、千鶴丸!」泣き笑いする八重姫が千鶴丸に抱き着く。あ、私もちょっと涙でてきた…
「今少しのところでっ!」憤怒の祐経の手から、黒い霧が玉となって八重姫親子に襲いかかる。感動している最中の二人、よけられない!
「ああ、母上…」かろうじて立ち上がった千鶴丸が、八重姫、つまり美香の体を心配そうに気遣う…が倒れた。幽霊でも気を失うのね。
「お次は曽我兄弟の首塚か…」いやらしく口の端を上げる祐経。首塚の前に立つ私達は絶対絶命…
はっと、気づくと私達の手に白い靄が生まれ、刀の形になっていく。なんなの?
「そ、それは!微塵丸っ!薄緑っ!」驚き叫ぶ祐経。
「何それ?」
「曽我兄弟の刀よ」と百合さんがちゃんと刀を構えている。あれ?私の体も勝手に動く…私も百合さんも剣道の経験ないのに。
驚きと怒りで醜く歪む祐経の顔。「や、やめろ…」
やめろと言われたってやめません。百合さんが微塵丸を大きく振りかぶって一閃!私も薄緑で横殴りに胴を払った。結構やるじゃん、私。「うぎゃあああああ!」祐経の体からは血は出ず、黒い霧のようなものが立ち昇った。
「ま、また負けるのか…」悔しさをにじませた声。祐経の姿が黒い埃のようになり、風に吹き消されるように見る見るうちに消えてゆく。
ふと、背後に人の気配を感じた。
はっ、と振り向くと美しい小袖を着た、涼やかな侍が二人…
「よう伊東の地を守ってくれたの。礼を言うぞ」と年長の人、曽我十郎祐成が微笑む。
「おなごの身で大したものじゃ」と若い人、曽我五郎時致がいたずらっぽく笑った。
「ああ…あなた方が曽我兄弟!」「私達に乗り移って…」
軽くうなずいた二人、微笑んだまま白くなって消えてゆく…私達の手元を見ると、握られていたのはただの木の枝にすぎなかった。
「わぁ…イケメンだったねぇ…」とお気楽な美香の声。
振り返ると、美香が元ののんびりした顔に戻って笑っている。そばの千鶴丸はいつの間にか消えていた。
「あの気品のある表情はどうしたん」と呆れて尋ねると
「あれは、八重姫ちゃんだよぉ」と微笑む美香。
「ちゃん付けはよしなさいって」たしなめる百合さん。
うふふ、と誰か笑ったような気がした。

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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