誰にも頼まれていないのに伊東市の観光地を紹介する謎の小説
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日蓮伊豆法難 第一章 まないた岩
富戸
「今日は何にも網にかかりゃせん」
粗末な着物の漁師がぶつぶつ言いながら、粗末な小舟をふらふらと操り、富戸の海をさまよっている。空の天気は非常に良いが、漁師の機嫌は非常に悪い。
「これじゃ女房を食わせることもできやせん」
適当にそこいら回ってみるか、と門脇崎を曲がると南に向かった。青い海原に切り立った崖が見事な景観を作っているが、そんなものを鑑賞する余裕は漁師には無い。
「そろそろ何かかかってもええ頃だがなあ」
何の因果でこんな商売を、と思いつつ何気なく右側の崖を眺めていると、妙なものが目に入った。
「何じゃ、あの岩」
確か、まないた岩のあった辺りだが、いつもと形が違うようだ。いや、もうまないた岩は沈んでいる時分だが。まるで人の頭ような…というか、ありゃ人だろ?
どどおん、ざばあん、と豪快に断崖絶壁に打ち寄せる波の音。その音に混じって妙な声が聞こえてくる。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経…」
念仏のようだが、念仏ではない。無教養な漁師とはいえ念仏くらいは知っていた。
「ナムアミダブツっちゅうのは知っとるが、ナムミョーホーレンゲキョーってな、何だべ」
不審に思いつつそばに漕ぎ寄せると、見慣れぬ坊主が腰まで海に浸かっている。こちらを見ようともせず、一心不乱に南無妙法蓮華経と怒鳴っているのだ。呆れて一瞬ぼおっと見つめた漁師、はっと気づいて
「ぼ、坊様ぁ!何やっとるだ!早う乗れ!潮が満ちるだ!」
念仏らしきものをやめた坊主、漁師に気づき、にかっ、と笑った。
「親切なお人じゃのう。では、乗せてもらうとするか」と、船の方へ泳いできた。
おや、と漁師が思ったのは、舟まで短い距離ではあったが泳ぎがかなり上手かったこと。更に、舟をひっくり返さないような乗り方も心得ていて器用に乗り込んできたことだった。
ずぶ濡れの粗末な袈裟に身を包んだ坊主が
「船か。懐かしいのう」とでかい目できょろきょろする。
「船に乗ったことがあるだか?」
「ああ、元は漁師での」
「じゃ、じゃあ泳ぎは達者ずら。はよ陸まで泳げばいいだに、あんなとこで何やってただ」
「岩に置き去りにされての。助けられるかどうか運試しをしておった。おぬしのお蔭で助かったという訳じゃ」にかっと笑ったその笑顔、狂っているようにも見えない。
「変わったお人じゃのう。なして岩に置き去りにされただ」
「いや、確かに変わったお人じゃったゆえ、念仏衆と喧嘩をしての。幕府に訴えられてしもうて、伊東に流されてきたのじゃ。つまり、わしは罪人じゃ。こう聞いて助けるのが嫌になったら、いつでも海に放り出してよいぞ」
はっはっはっ、と天を仰ぎ何の屈託もなく大笑いするその笑顔、全く憎めない。
「魚は獲れんかったが、面白い坊さんが獲れたものじゃ」

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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