誰にも頼まれていないのに伊東市の観光地を紹介する謎の小説
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日蓮伊豆法難 第六章 日参
「まさか日蓮本人が殿を呪詛しておるということは御座いますまいな」
「いや、それは無かろう。日蓮は毎日、百姓や漁師の元へ出かけ手伝いなどをし、布教はそのついでくらいじゃそうじゃ。およそ流人らしからぬ流人じゃな。呪詛するとすれば夜じゃが、殿は昼も夜も絶え間なく苦しんでおる故、ちとおかしい。それに実際会うてみて、日蓮がわしのことや殿のことを憎んでいる様子は全く見えん。不思議な坊主じゃ」
「それで、これからどうなさるお積りで」
「うむ…」と口ごもったが「とりあえず出かけてくる」と相変わらず糞まじめな顔の綾部正清。実は少し目算があった。
日課のごとく馬に乗り川奈へ向かう正清を、村人達ももう見慣れて噂もしなくなった。日課のごとく岩屋をくぐる正清を、日蓮ももう見慣れて苦笑いをした。
「さぞ、懲りぬお人じゃとお思いでしょうな」と正清の方も珍しく笑顔を見せた。
「いや…主人を思うお心は見上げたものだと思うておりますが」
「本日は、拙者も腹を決めて参りました」と正清は居住まいを正すと「拙者を、どうか日蓮殿の門弟にしてくだされ」といきなり土下座した。
深々と頭を下げる正清を見て、日蓮のもともと大きい目が更に大きくなった。
「いや…ご家老の見上げたお覚悟は認めます。ただ、病平癒の祈祷についてはむしろご病人本人の宗派を何とかせねば」
「殿はご病気で話もままならぬ状態にて」
「うむ、それはそうじゃが」
「殿の御病気が治った暁には、拙者が命を懸けて殿を説得し法華経に帰依させる所存。それでいかがか?」
ひたむきな眼差しで、じっと日蓮を見上げる正清。その目には一点の曇りすらない。
ううむっ、と滅多なことでは他人に気を呑まれるようなことは無い日蓮が、大きくたじろいだ。
「わしは…念仏衆などと見下す気持ちがどこかにあったかも知れぬ。宗派の争いにかまけて、人の命を軽んずる気持がどこかにあったかも知れぬ。愚かな坊主と笑ってくれい。正清殿の見事なお心映え、感服いたした。わしの負けじゃ。喜んで病平癒の祈祷を致しましょう」
破顔する日蓮を、正清が泣き笑いで見上げた。

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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