誰にも頼まれていないのに伊東市の観光地を紹介する謎の小説
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伊東沖海戦 第一章 伊東マリンタウン
マリンタウン
海沿いの国道135号線バイパス。街路樹の背の高い椰子の木の向こうに、カラフルな屋根が見えてくる。道の駅、伊東マリンタウンだ。
私、新井魔魅は、伊東市役所観光課に入ったばかりの社会人一年生。伊東市の観光課にいるくせに伊東マリンタウンに行ったことも無いのはまずいだろ、という建前で、同僚かつ親友の松原美香を連れて遊びに来ている。
伊東マリンタウンは温泉に入れるスパ棟と買い物の出来るバザール棟に分かれる。ちょっとお腹の空いてきた私達はバザール棟の二階へと階段を上った。まぐろ丼だの、あさりラーメンだの色々目移りするけど、今日は一番奥の「海辺の食卓」へ。その名の通り窓から海が見えるレストランだ。快晴の伊東港、マリーナに停泊する多数のヨットを眺めながら鯖バーガーを注文した。鯖のフライと蜜柑のスライスがはさんであるハンバーガー。美味しいけど、一食700円は結構いいお値段だ。
「あ、あそこ百合さんがいるぅ」と美香が笑顔で可愛い声をあげる。
んっ?と外を見ると、なるほど観光課の先輩の宇佐美百合さんがにこやかに誰かと話している。
「あ、あれ海野さんじゃない?」以前、伊東に現れた妖怪退治の時にお世話になった城ケ崎ダイビングスクールのダイバーだ。そういえば、近くにあるのは私達も載せてもらったことのあるモーターボート。
「ほほぉ。いつの間にそんな仲に」男なんて歯牙にも掛けないクールビューティーだと思ってたけど。
「そーゆーことかぁ。うふふふ」美香が額を窓に押し付けたまま、悪戯っぽく微笑む。
そのうちマリーナの二人は仲よくモーターボートに乗った。すぐに防波堤に沿って進み、沖合を目指す。海風に吹かれながら気持ちよさそうに去って行く。まあ、よろしくやっててください。と、遠くに目を転じると妙なものが目に映った。
「あ、あの船は?」
現代の船ではないのは明らかだ。三本マストの、ずんぐりした洋式帆船。何故かどこかで見たことある…そうだ!市役所のロビーにある船の模型。サン・ブエナ・ベンツーラ号!ウィリアム・アダムスこと三浦按針が、江戸時代の初めに伊東の松川河口で建造した船。でも、四百年も前の船が何故ここに?
「美香!百合さんの所へ行くよ!」椅子を蹴って立ち上がると、
「鯖バーガーまだ全部食べてないのにぃ」と情けない美香の声。
鯖バーガーより百合さんの心配をしなさい。
階段をどどどどっ、と駆け下りた。土産物を物色する観光客達の驚く目など構わず海側の扉をどんっ、と開ける。左側、伊東マリンロードの入口へ。
堤防に設けられたマリンロードを駆け出すと、百合さんの乗ったモーターボートが慌てて戻ってくるところだった。向こうもこちらに気づいたのだろう、堤防にモーターボートを寄せて二人上がって来た。
「あ、あなたたち…」二人でいるところを見られて海野さんも百合さんも戸惑っている様子。こんな時に恥ずかしがらなくてもいいです。
「えーと、お似合いなのはともかくとしてですね」
妙な挨拶をしているうちに、どどどどどおん、とサンブエナベンツーラ号が堤防に体当たりしてきた。舳先で不気味に微笑む白人は…三浦按針?そんな馬鹿な。ぼろぼろとコンクリートが崩れ始める。木造船なのにコンクリートを崩すなんて?
「早く逃げよぉぉぉっ!」泣き出しそうな美香。
「大賛成!」マリンロードの入口を抜け、一気に四人、駐車場へと駆け上がった…と思ったら海野さんは?あれ、モーターボートのところでエンジンをかけている。
「海野さん!何してるの!」と叫ぶ百合さんに
「まあ、見ててくれ」と不敵な笑い。ボートに何かぶちまけた…あれってガソリン?
がりごりがりっ、と音を立てて堤防を真っ二つにしたサンブエナベンツーラ号はそのままサンライズマリーナへ突き進む。
ぶおおおお、と海野さんを乗せたモーターボートがサンブエナベンツーラ号へ向かっていく!
「あぶないぃぃ」マリーナでは数十隻ものボートがひっくり返り、ばき、べき、ごりっと破壊されている。
マリーナ
「うわぁっ」「きゃぁっ」マリンタウンの中に居た人達も海を見て驚いたのか、一斉に飛び出してきた。
多数のボートをおもちゃのように蹴散らしたサンブエナベンツーラ号、マリンタウンのバザール棟へと突っ込んだ。あと十分あの中に居たら私も危なかった…べきべきべきっと壁が壊れ、二階建ての可愛い建物が無残に破壊されていく。
巨船の後部へ追いついた海野さん、モーターボートからダイブ!一瞬遅れて炎が、ぼおおおおっと燃え上がる!
「きゃあああああ!」百合さんの口から聞いたことも無い悲鳴があがった。あの冷静な百合さんがぼろぼろ涙をこぼし、見たこともないような泣き顔に。
とその足元の海面から、ざばあっ、と少し火傷をした男の顔が上がった。
「ふふ、付き合い始めたばかりで死ねないよ」
…以後の甘い二人は私は描写したくないっす。
バザール棟に乗り上げたまま、船体後部からぱちぱちときな臭い煙をあげているサンブエナベンツーラ号。不意に、不自然に後ろにのけぞると海底に沈んでいった。普通の船の動きじゃない…というよりマリーナはそんなに深くないはず。
沈みきる瞬間、「ふふふ、よくもやってくれたな。また来るぞ」と不気味な声が響いた。

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