誰にも頼まれていないのに伊東市の観光地を紹介する謎の小説
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日蓮伊豆法難 第五章 綾部正清
特に取り立てて豪華な服装でもないが、それでも清らかに折り目正しい綾部正清の風体は、川奈では結構目立った。貧しい身なりの村人達が物陰でひそひそ噂するのには目もくれず、晴れた空にも鳴く鳥にも笑い一つ浮かべず、黙々と馬を進めて行く。やがて、地頭の家老が入るにはあまりに侘しい岩屋に着き、馬を下りた。
「申し、おられるかな」中へ声をかける。
「おるとも、おるとも」と流人にしてはやたらと元気な声が返ってきた。
ちょっと出鼻を挫かれた気はしたが、それでも真面目な顔を作って岩屋の奥へ進んだ。奥というほどのこともない狭い内部に、でかい目玉をした坊主がにこにこして座っている。
「お主もわしの教えを受けたいのかな?」と屈託のない満面の笑みが迎えた。
「いや…」と口ごもる正清。正直、苦手な型の人間だと思った。
「実は、拙者、伊東の地頭伊東朝高が家老、綾部正清と申すもの」
「ははあ、それでわしを捕らえようと。構わんよ。お供しよう」と全く笑顔を崩さずに立ち上がろうとする様子。
「いや、待たれよ」と慌てて手を上げ押し止める正清。流人の坊主など一喝してやろうくらいの気持ちで来たのだが、全く勝手が違う。
「流罪の件はいずれ、折を見て話すといたそう。本日参ったのは、わが殿伊東朝高様の病の件でござる」
「ふむ、噂は聞いておる」
「率直に申し上げる。病平癒の祈祷をお願いしたい。隠しても始まらぬので申すが、朝高様は念仏衆である。日蓮殿、そこを曲げて祈祷をお願いしたい」と正清が滅多に下げたことのない頭を下げた。
さすがに日蓮も笑いを引っ込める。「いや、わしのような糞坊主に頭を下げるとは見上げた家老様じゃ…じゃが、一応、筋は通したい。朝高殿が法華経に帰依するのであれば考えよう」
ううむっ、と正清が頭を下げたまま顔を赤くする。ここで怒ってはならぬ、と息を整えてから頭を上げた。
「拙者も今日一日で御坊を説得できるとは思ってはおらなんだ。また日を改めて」
ふうっ、と深呼吸して気を落ち着けてから、きちんと日蓮にお辞儀をして岩屋を立ち去る正清であった。宗派のことはともかく、それなりに立派な人物であるのは日蓮も認めた。

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