誰にも頼まれていないのに伊東市の観光地を紹介する謎の小説
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日蓮伊豆法難 第八章 立像釈尊
「ほほお、これは見事な」
「ほんのささやかなお礼でございます」
すっかり病の癒えた伊東朝高が、金色に輝く立像釈尊を日蓮に差し出した。
今を去ること数十年前、伊東の松原海岸が三日三晩光り輝き、魚が逃げてしまう怪異があった。あまりの不思議に伴左衛門という漁師が思い切って船を出し、恐る恐る網を投げ入れてみた。するとしばらくして、金色に輝く釈迦仏が網にかかってきた。伴左衛門は自分が所有するのは恐れ多いと、これを地頭である伊東家に預けたのである。
「日蓮様には下手に金品など差し上げるより仏像を差し上げた方がよい、と正清が申しておりましたが、その通りでございましたな」
病に伏せっていたとは思えぬ元気な様子で朝高が微笑むと、日蓮も微笑み返した。
「ところで、日蓮様のお住まいのことでございますが、岩屋では何かとご不自由でございましょう」
「いや、さほどには。鎌倉でも粗末な庵に住んでおったゆえ」
「いえ、実は当家には毘沙門堂がございます。手ごろなお住まいとして、ぜひ日蓮様にお住みいただけたらと…いかがでございます」
朝高の目の奥に、悪意は全くないが、地頭のずるがしこさが見て取れた。
「ははあ」日蓮がにやりとする。すでに日蓮は玖須美館の構造はおおむね知っている。毘沙門堂は鬼門に当たるのだ。別に、朝高の日蓮への感謝は偽りではない。日蓮に気持ちよく過ごしてもらおうという気持ちももちろんある。だが、おためごかしに日蓮を鬼門封じに使おうとは、いかにも地頭らしく小ずるく頭を働かせたものである。
日蓮はその点には気づかぬふりをして
「そうですな、住まわせていただきましょうか。ただ、いささか書き物をしたいと存ずるが、ちと紙が不足ゆえ用意していただけますかな」
この時代、紙はまだまだ高価なものであった。
「ええ、紙や墨くらいでしたらいくらでも」もう鬼門から病が来ないのであれば、そのくらいは安いものだと計算する朝高。
「有難く存ずる。なお、わしが経など入用な時は出来る限りご手配いただきたいが、よろしいかな」
この辺りは日蓮もなかなか計算高い。
「ええ…心得ました」
朝高も、そう答えざるを得ない。さて、どちらが得をしたか。

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