誰にも頼まれていないのに伊東市の観光地を紹介する謎の小説
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曽我物語異聞 第二章 音無神社
空を行く祐経を目で追いながら、私達三人は松川沿いの遊歩道の石畳を駆けてゆく。
「何もあんなもん追わなくても…」とぼやく私、
「妖怪の次は幽霊?もうやだぁ」と文句をいう美香に
「大変なことが起こる予感がするの、とにかく走って!」と急かす百合さん。大変なことなら私達三人の行く先々で十分起こっているので後は静かに余生を過ごしたい。余生長いけど。
祐経は松川を遡り、やがて通学橋を越えた。右手奥に日暮神社、左手に音無神社。
岡橋まで行かずに祐経は空中に止まり、俯いて何かつぶやいている。
「祐親の娘が乳繰り合った音無の森か…その向こうが最誓寺…」
源頼朝は、父義朝が平治の乱で平家に敗れたため、蛭ヶ小島に流されてきた。その頃、頼朝は伊東祐親の娘の八重姫に会うためにわざわざ毎夜馬で伊東まで駆けてきたという。スケベな男である。八重姫に会うために頼朝が待っていたのが日暮の森、現在は日暮神社が建っている。そして八重姫と落ち合ったのが音無の森にある音無神社。現在は森はないが巨木が残っている。音無という名は、頼朝が逢引きの最中、川の音を叱ると音が無くなったという嘘っぽい伝説から。現在、岡橋には頼朝と八重姫のレリーフが飾られている。
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八重姫と頼朝の間には千鶴丸という子が生まれた。だが、当時は平家全盛の世であり、源氏の嫡男の頼朝の子である千鶴丸は、伊東祐親の命令で松川の稚児が淵に沈められた。その千鶴丸の供養のために八重姫が建てたのが、音無神社の向こうの最誓寺だ。
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「音無とはつまらん名前じゃ。音を立ててくれよう」
ざばああああっ、とものすごい音を立てて松川の水が盛り上がった。数メートルはあろうかという巨大な水球が音無神社に襲いかかる!がらん、ぐわっしゃん、と地響きをたてて音無神社の社、鳥居、タブの木が倒れる、そして、道路を越えて最誓寺の壁を叩き潰す!多くの墓石が発砲スチロールで出来ているかのように簡単に流されてゆく。寺の本堂や伊東家の墓、樹齢六百年の大ソテツも一気に流される。どどどどどっ、と国道135号線の上に瓦礫が散らばり、ヘッドライトに照らされる。あわてて急ブレーキをかけた乗用車。そこへ、どかあん、どかあん、と次々に後続車が衝突する。
音無神社があった場所まで走ってきた私達三人、息を切らしながらこの大惨事を眺めた…あれ?美香だけ息が上がってない。様子が変だ。
「おのれ祐経…」いつもは天然でぼおっとした美香の顔が、怒りで険しいものの気品にあふれている。
「えっ。何言ってるの、美香?」
「わらわは八重姫。工藤祐経の所業を見かね、この娘の体を借り参上した」美香も色んなものに取り憑かれる子だねえ。天狗よりはましか。
「ふん、八重姫じゃと?おなごの身で何が出来る」頭上で不敵に笑う祐経、夜空に上昇して南へ。忙しい幽霊さんだ。

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曽我物語異聞 第一章 薪能
松川のせせらぎに、笛の音や鼓の音が調和する。
伊東祐親祭りの最大の出し物、薪能。伊東市内を流れる松川の上に特設舞台と観客席を作る変わった趣向で見せてくれる。舞台の両端にかがり火が赤々と炊かれ、なかなかの迫力だ。…ただ、そばのいでゆ橋からでも結構見えるのに、S席に座ると五千円も取られる。それでも満席になるのが不思議だ。
伊東祐親は平安末期の伊東の豪族だ。伊東に貿易や製鉄を興し栄えさせた。しかし源平合戦で平家方についたため、捕らえられ自害してしまった悲劇の武将だ。
能舞台の背後の東海館は昭和初期の建築の古風な旅館である。現在は旅館を廃業し伊東市が管理しており、内部に伊東の歴史に関する展示物が飾られている。今夜は全館に灯りが灯され舞台を盛り上げている。川面に映る灯りがちらちらと揺れ美しい。0109.jpg

今日の出し物は「小袖曽我」。父の仇討に行く前に母の所に寄った曽我兄弟が、別れを惜しみ母の前で舞い、形見として小袖を貰うというストーリー。
曽我兄弟は伊東祐親の孫に当たるが、仇討の話は伊東祐親と工藤祐経の所領争いに端を発する。所領争いに敗れた工藤祐経が、家来に命じ、伊東祐親とその息子の河津三郎の暗殺に行かせた。伊東の奥野で催された巻狩りの帰り道、伊東祐親は危うく難を逃れたが、河津三郎は祐経の家来に射殺される。河津三郎の子である曽我兄弟は当時は子供であったが、成長して工藤祐経を討つことになる。
今年は、伊東市役所観光課の私こと新井魔魅、親友の松原美香、先輩の宇佐美百合さんで薪能の手配をした。どうやら大きな失敗も無く開催にこぎつけ、今三人は舞台の袖に座っている。百合さんは熱心に『伊東本曽我物語』を読み耽っているが、美香はあくびを堪えている。私はといえば、仕事上一応は勉強した曽我物語のストーリーを思い出しながら、役者達が扇子を持って舞うのを熱心に見ているふりをしていた。
不意に、稲光が辺りをさっと明るくした。すぐにごろごろごろごろごろおっ!っとすさまじい音を立てて雷が響いた。
「きゃあぁ」と怯える美香。
「近かったわね」と本から顔を上げようともせず冷静な百合さん。
いつもながら対照的な二人ね。後で聞いたところでは、この時には物見塚公園の伊東祐親の銅像を雷が直撃、銅像が黒焦げに焼失したところだった。
と、突然かがり火が巨大に燃え上がった。見る見るうちに東海館の最上階にまで達する。私達の顔まで熱気でほてる。
「きゃあっ」「なんだ?」観客達が怯えて騒ぎ出す。がたがたと立ち上がって逃げ出す人もいる。
舞台の中央に立つ不気味な姿…あんな役者いた?古風な和服を着て、不気味に青白い顔。鼓も笛も驚いて止まってしまった。
「何あれぇ」とびびりまくる美香。
「我は工藤祐経…」と呟く人物をよく見ると、その体が透けている…
「この世のものじゃないみたいね」といつもながら冷静に観察する百合さん。ちょっとは慌ててよ。
「この伊東の地で、曽我物を演ずるなど愚かなり」そんなこと言ったって市議会で通ったものはしょうがないじゃん。
「伊東祐親ゆかりのものなど、全て滅ぼしてくれるわ!」
がたん、と倒れるかがり火。途端に、ぼおおっ、と水上舞台が燃え上がる!
「きゃあっ!」「うわっ!」観客席から道路へと上がる階段に人が殺到する。狭い階段に押し合いながら、なかなか前へ進まない。
祐経はふわっと浮き上がった。いでゆ橋を越え、ラヴィエ川良を越え、西へ?

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